成形時のシリコーンゴムの収縮について

ゴムは未加硫(未硬化)の状態から熱硬化の圧縮成形を行うと、必ず収縮し金型寸法よりも小さくなってしまいます。硬質プラスチックの射出成型でも同様の現象は生じますが、ゴムは他の素材よりも数倍大きく収縮しますので、金型設計時に、収縮をどの程度に設定するのかを見定めることが、ゴム成形メーカー各社のノウハウとなってきます。シリコーンゴム材料メーカーからも、材料グレードや硬度ごとに収縮率の提示はありますが、製作する製品・部品の形状や仕様、その他の要素によって画一的ではないため、当社では個々の製品・部品毎に収縮を考慮した金型設計が必要であると考えます。

ゴムの収縮率とは?

  • 定義:成形後の製品寸法が金型寸法よりも縮む割合。
  • 計算式:収縮率 =( {金型寸法} – {製品寸法})x金型寸法÷ 100

収縮率に影響を及ぼす主な要因

材質・配合
(加硫剤・添加剤含む)
ポリマー構造や加硫剤・添加剤の種類、配合量により異なる。同一グレードでも、加硫剤・添加剤により収縮率が変化する。
成形方法・条件 圧縮成形、射出成形、ライニング成形等で収縮率に差が生じる。成形時の加硫温度・時間、成形圧力、その他の成形条件でも変動する。 
2次加硫
(アフターキュア)
2次加硫の有無、及び2次加硫の温度、時間等の条件によって収縮率に差が生じる。
製品形状 同一材料(硬度・グレード)でも、肉厚や単純形状・複雑形状等で収縮率のバラツキが大きくなる。 
硬度 同一グレードでも一般的に硬度が高いほど、収縮率は小さくなり硬度が低いほど、収縮率は大きくなる傾向がある。 
保管環境 材料保管時の温湿度や配合後の時間の経過によって、寸法変化が生じる場合もある。 

シリコーンゴムの一般的な収縮率の範囲

ゴムの種類  略称  加硫系(架橋反応) 収縮率
ビニルメチルシリコーンゴム
一般的なミラブルタイプの工業用シリコーンゴム
VMQ パーオキサイド加硫 2.5%~4.5%
ビニルメチルシリコーンゴム
医療・食品用途に多く使用される。(=プラチナシリコーンゴム)
VMQ 付加反応型 1.5%~2.5%
フルオロビニルメチルシリコーンゴム
耐油性に優れるため、自動車業界に多く使用される(=フロロシリコーンゴム)
FVMQ パーオキサイド加硫 3.0%~4.0%
フェニルビニルメチルシリコーンゴム
耐熱・耐寒・耐放射線性に優れているため、航空・宇宙用途に多く使用される。
PVMQ パーオキサイド加硫 3.0%~4.0%

※本数値は、当社の過去の実績より抽出した値ですので、実際の収縮率は異なる可能性があります。


なぜ、シリコーンゴムの収縮率は、他のゴム素材と比較して大きいのか?

シリコーンゴムの収縮率が他のゴム材料(EPDM、NBR、天然ゴムなど)と比べて大きくなる理由は、主にその分子構造と加硫挙動に起因します。


理由①:分子構造の柔軟性と高自由度

  • シリコーンゴムはSi–O結合を主骨格とするポリマーで、炭素系ゴムよりも分子の柔軟性が高い。
  • この柔軟性により、加硫前後で分子鎖の再配置が起こりやすく、寸法変化(収縮)が大きくなる傾向がある。

理由②:加硫反応による体積変化

  • 加硫(架橋)によって分子鎖が密に結合されると、分子間の空隙が減少し、体積が縮む。
  • シリコーンは加硫温度が高く、反応が急激なため、収縮率も大きくなりやすい。

理由③:充填剤や添加剤の影響が少ない

  • EPDMやNBRなどはカーボンブラックや白炭などの充填剤を多く含み、これが寸法安定性を高める。
  • シリコーンゴムは透明性や食品適合性を重視する用途が多く、充填剤が少ないため、純粋なゴム成分の収縮が顕著になる。

理由④:成形方法と二次加硫の影響

  • シリコーンゴムは成形後に二次加硫を行うことが多く、これにより追加収縮が発生する。
  • 他のゴムでは二次加硫が不要な場合も多く、収縮が抑えられる。

当社取り扱いのある石油化学系合成ゴムの一般的な収縮率(参考)

ゴムの種類  略称  加硫系(架橋反応) 収縮率
ニトリルゴム NBR 硫黄加硫 1.5%~2.5%
ニトリルゴム NBR パーオキサイド加硫 1.5%~2.5%
クロロプレンゴム CR 金属酸化物 1.5%~2.5%
エチレンプロピレンゴム EPDM 硫黄加硫 1.2%~2.0%
エチレンプロピレンゴム EPDM パーオキサイド加硫 1.2%~2.0%
フッ素ゴム FKM フェノール系加硫 2.0%~3.0%
アクリルゴム ACM 金属石鹸系+アミン促進剤 1.5%~2.5%

※本数値は、当社の過去の実績より抽出した値ですので、実際の収縮率は異なる可能性があります。